どろぼうかつか
我が家に上がる坂の上の土手に山百合が満開です。早朝、何とも言えない香りがあふれます。毎年増えてきて、今では二十株近くになりました。
毎年、七月二十日頃から咲きはじめますが、今年は夏が遅く低温が続きましたので奇形の花も見られます。
あのまま低温が続きましたら、忽ち冷害で、東北の農漁村は大変なことになっていたでしょう。
天候が回復したので二十三日から山百合が一気に花を開きました。もう少しづつ散り始めています。花が散り始めると花弁が実になるので摘み取ってやります。
すると球根に養分が回り、来年も大きな花を咲かせるのです。
もう四、五日で盛りが過ぎ、三陸は秋の気配が漂いはじめます。暑いのはほんの一瞬なのです。
暑い夏を喜んでいるのは子供たちです。
昨日、五才と二才の孫を連れてお気に入りの水辺に行きました。
上二人の小学生が学校行事でママと出かけると、カキじいさんの出番となります。
船上げ場の岸壁には、天然の牡蠣がびっしり付着しています。それを石でたたいてつぶしてやります。
「トントンやるか?」と二才の孫に語りかけると満面の笑みで大きくうなづきました。カキの身に、小魚やカニが集まってくるのを知っているからです。
カキの白い汁が流れ出すと、黒字に黄色の縦縞をした「どろぼうかつか」が真っ先にやって来ます。
ハゼ釣りをすると、あっという間に餌をとってゆくので「どろぼうかつか」と呼んでいます。
たちまち五匹ほどがやってきて、カキをつついています。手が届く目の前の光景です。
白地に黒い縞の「しまかつか」もやってきました。この小魚もしばらく姿を消していましたね。
カキじいさんとは小さいころから友達だった「ナベカ」というこの地方では最も派手な小魚も現れます。鰭が鮮やかな山吹色なのです。牡蠣の殻に住み着きます。英語ではエレガント・フィッシュ。中国名はハオ・ズーユ(*仔魚[*は虫偏に毛。牡蠣の意])。
小さなカニやヤドカリも続々とやってきてカキを食べ始めました。小さなエビたちもおっとり刀でピョンピョンとやって来ました。ちょっと離れたところでは集まった小魚たちをガザミが虎視眈々と狙っています。(こちらはあとから茹でていただくことにしましょう。)
二人の孫たちは目を皿のようにしてこの光景を見つめています。
昨日京都大学から名古屋大学で開催されるCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)に招待したいのですが、という案内が届きましたが、この光景こそ生物多様性そのものではありませんか。
靴もズボンもすっかり水浸しにして、ママの仕事は増える一方ですが、カキじいさんは何とも幸せな気分でした。
カナカナカナのヒグラシから、ジーッというアブラゼミの声に変わると短い夏も終わり、そろそろ気仙沼は美味しい戻りガツオのシーズンです。