ハモ釣り
カキじいさんの夏の楽しみは「ハモ」釣りです。
三陸では穴子(あなご)のことを「ハモ」や「ハム」と言います。
京都で有名な「鱧(はも)」とは別物を指します。この時期の「はむ」はびっちりと脂がのり、三陸の風物詩となっています。
まだ小学校に入る前からお父さん(カキひいじいさん)に連れられて夜釣りに行ったものです。食べ物が少なかった時代ですから、ハモはご馳走でした。
今年は夏の行事が多く、これまでその機会を逃してしまいましたが、やっと先日、三年生の孫を連れて楽しんできました。
幼稚園の次男もしきりに「今日、行くんでしょ!ねっ!ねっ!」と、しきりにアプローチして来ましたが、学校に入ってからね、とようやく説得しました。お兄ちゃんはしたり顔です。
夕方は涼風が吹いてすっかり秋の気配です。空も高くなり、海から見る舞根湾の夕焼けは何とも言えない美しさです。
絵が得意な長男坊の頭の中には、きっとこの色彩が刷り込まれたことでしょう。
カキじいさんは昔、近所の古老に、餌のイカを奥歯で“ニカニカ”とかじって針に付けると食いがいいと教えてもらいました。
解凍イカですのでかなり生臭いのですが、海で洗ってニカニカ、ニカニカ、、、、、。
夕焼けを眺めながら、テンテン釣りの開始です。
十回も糸を上げ下げしていると、グググググッっとハモ特有の強いあたりです。すぐに合わせてはいけません。動かすのを止めて、そっとテグスを上げてみるのです。
餌に喰いつき、尻尾でテグスを絡んでいるのが振動から手に取るように分かります。
サッと合わせると、グングングングンと強い引きです。こうなればまず大丈夫。慌てずゆっくりとテグスを手繰ります。
下の方から白っぽいものが見えてきました。六十センチはある見事なハモです。船縁に引っ掛けないよう、ヨイショっと船中へ。
ああ、でっけえ、でっけえ!と孫は目を見張ります。本当はかぼちゃの葉っぱがハモを抑えるのに最適なのですが、今日は軍手で代用です。その
軍手をしていてもヌルヌル、ヌルヌル。力が強いので針を外すのも一苦労です。
さあ、次はお前の番だぞ!とプレッシャーを掛けます。
ところがどうしたことかカキじいさんにだけあたりが来て釣れるのです。
孫は、しばらくこちらを横目でチラチラと恨めしそうに見ていましたが、あっ、きたっっ!と手を止めました。
もう少し待ってろと制して、ゆっくり上げてみろ、と言いますと、口を真一文字に結んで真剣な様子です。
ググッ、グググググッ、、、引いてる、引いてるっ!っと、顔は引きつらんばかりです。
グッと合わせろ、、、、。教えていたように合わせると、あっ、引っ張られそうだっ!と必死です。
慌てるな、ゆっくり、ゆっくり、と至福の会話が続きます。
かなりの大物が上がってきました。さすがは漁民の子、船縁を巧みに躱し、船内にドサリッ、バタバタバタッ、ギューッギューッ。ハモの鳴く声が響きます。
孫の背丈の半分を超えています。カキじいさんの腕回りほどもある七十センチはある大物でした。
力が一気に抜けて目をくりくりとさせている孫を、カキじいさんは少し頼もしく感じたのでした。
季節ごとの色々な海と親しみながら、カキ養殖四代目は少しずつ少しずつ育ってゆきます。