賢治と医学

mizuyama-oyster-farm2010-08-03

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七月末、カキじいさんは第二十九回歯科医学教育学会学術大会で特別講演のため盛岡に居りました。

どうしてそんなところへカキじいさんが、、、、とお思いでしょうか。

いろいろ歴史があるのです。


グスコーブドリの伝記と出会った五十年前、家のすぐ近くに東北大学のかき博士、今井丈夫先生が財団法人かき研究所を開設しました。

そこに東北大学理学部助手のプランクトン博士、白石景秀先生が赴任したのです。牡蠣の赤ちゃんに食べさせる餌のプランクトンを培養する責任者です。アメリカの研究所に派遣され、専門技術を磨いてきたばかりでした。


気仙沼水産高校生(現気仙沼向洋高校)だったカキじいさんは、毎日研究所に通い、白石先生からプランクトンのイロハを教えてもらいました。

先生はやがて岩手医科大学の生物学教授に迎えられ、学部長をされていました。講義では「自然はトータルに見なければならない」ということを教えておられたそうです。

そんな折、昔のことを思い出して、森は海の恋人運動を引き合いに出し、カキじいさんのことも話していたらしいのです。

やがて先生の教え子が歯学部の教授になりました。一昨年、岩手医大歯学部の集まりにカキじいさんが招かれ、森は海の恋人運動や白石先生の思い出を語る機会があったのです。

そんなつながりで、今年、全国の歯科学大学の学長、教授、准教授、助教などの方々が四百人近く集まる大イベントが岩手医科大学開催されるのにあわせて、カキじいさんに講演のお話しがあった、というわけです。


医学の世界も人体をパーツに分けて研究する時代に入っていて、口腔医学が全身の健康とどう関わっているかを認識させることが課題となっていました。

学会では、専門的な歯学の講演者とは別枠でご当地ソング的な立場でカキじいさんの出番を設けてくださいました。「人体を自然に準(なぞら)えた話を」ということになったのです。


盛岡は北上川の上流に位置します。北上川の河口石巻湾は牡蠣種苗の世界的な大生産地です。

盛岡は昔から刃物の産地、その下流に位置する水沢は南部鉄器の産地であることからも分かるように、北上川水系は鉄の含有量が多いことで有名です。

人間も血液中の鉄が生命維持の要であることから話はじめ、自然界と鉄のかかわりをグスコーブドリの伝記(前出 2010/8/1 「グスコーブドリの伝記」)を交えながら話してみますと、午後二時からという最も眠くなる時間帯にもかかわらず、うれしいことに熱心に聞いてくださっています。

グスコーブドリの伝記の中にそのようなメッセージが含まれているとは。これは講義に使える」と思った先生が多くいたようです。医学生だって温暖化、寒冷化のメカニズムは知っておく必要があるのです。


招いてくださった岩手医大歯学部長の先生からも、みなさん喜んでくださったと報告を受けて、カキじいさんもホッと一安心。どの分野であっても、やはり宮沢賢治のメッセージは普遍だなあ、と感じました。

懇親会でも多くの先生方に声をかけていただきました。「若いころ、バクテリアと鉄の研究をしていて、鉄を取り込むため生命体はあらゆる手段を駆使して必死なのだということを思い出しました。岩手県まで来て本当に良かった。」ある先生がうれしそうにそう話してくれたのが印象的でした。


岩手医科大、東京医科歯科大、大阪医科歯科大などの学長先生にも声をかけていただき、カキじいさんは恐縮しっぱなしです。講演前に腹ごしらえにと盛岡名物わんこ蕎麦屋さんに行きましたが、講演が気になって大人平均五十杯以下の三十杯しか食べられませんでした。

この次は、余裕のある時に来ることにしよう。百杯目指して。

畠山重篤


朝の舞根湾にて