二十歳になった「子供たち」

mizuyama-oyster-farm2010-09-13

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今日(9月11日)はカキじいさんにとって、とても嬉しいことがありました。

東京都足立区立第七中学校の卒業生十八人と先生二人が舞根湾を訪ねてくれたのです。

七年前、修学旅行で気仙沼を訪れ、水山養殖場で体験学習をしました。気仙沼湾へと注ぐ大川上流の岩手県室根村(現一関市室根町)で植樹体験もしました。

その時の印象が深かったのでしょう。二十歳になったらもう一度気仙沼へ行こう!。誰からともなくそんな声が上がっていたのだそうです。


今年一月、成人式で先生と出会い、二十歳の記念に、思い出の気仙沼に、、、。たちまち実行委員会が作られ、バラバラになっている六十人の仲間に連絡すると、十八人が手を上げてくれたそうです。学生になった人、仕事に就いた人など、様々です。


深夜バス組、新幹線組の二班に分かれて気仙沼へ。当時、引率してきた飯村先生に話を聞きますと、その頃、都内中学校の修学旅行先は奈良や京都がほとんどだったそうです。

思い出に残る修学旅行を、と模索していたところ、カキじいさんの「森は海の恋人」
という本に巡り合い、ピンと来たそうです。

飯村先生はカキじいさんと同じで、思い立ったらすぐに行動に移す性格らしく、あっという間に舞根湾に相談にやって来ました。

頭は丸刈りでしたが、金八先生のような人だなあ、という印象でした。


体験学習に行きたいという学校の希望が多く、遣り繰りが大変でしたが、飯村先生の熱心さに打たれて、受け入れることにしたのでした。



まず、客船をチャーターして、湾奥の気仙沼港から出発し、大川河口を通って大島瀬戸を巡り、舞根湾まで小一時間の船旅です。

養殖漁場を通りますので、汽水域の大切さを肌で実感できるのです。


養殖場では仲間に手伝ってもらい、ホタテ貝の耳釣り体験をしてもらいました。ロープに糸がたくさん付いていて、ホタテ貝の「耳」に開けた穴に一つ一つ通していきます。ロープには帆立貝が鈴なりです。


貝がパクパクと生きていますので、そんなのを見るのは初めてなようでした。プランクトンネットでプランクトンを採取し、それを飲んでみることもしました。カキやホタテの身になってプランクトンの味を試してみるという、子供たちには人気の体験です。

そのプランクトンを育む養分は、森林から供給されます。そこで水源地の山に行きナラ、ブナなどの広葉樹の苗木を子供たちの手でみずから植えました。


美味しい気仙沼の海の幸の記憶と共に、子供たちの心の中にも自然を愛する気持ちの苗がしっかりと植えられたと思います、、、、、と、先生はとてもうれしそうに語ってくれました。

当時、何が一番印象的でしたか、と彼らに問うてみますと、「カキが美味しかったこと!」と、なんとも正直です。


丁度、その日、気仙沼では「さんま祭り」で大分県の方々がカボスを持ってきてくれたのです。カボスの汁をしたたらせ、生カキをご馳走しました。

うまい!むー、うまい!、、、の声にカキじいさんは夕方までカキ剥きをさせられて、手がしびれるほどでした。

子供の頃、自分たちの体で直に感じた森と川と海の繋がりが、強烈な味覚の記憶と共に、彼らの中で蘇っていることでしょう。


当時と今回の訪問について体で感じたことをあらためてお伝えします、と約束して、彼らは舞根湾を後にしました。



二十歳になった「子供たち」との、とても嬉しい初秋の一日でした。

畠山重篤



海の森に集まる「子供たち」(舞根湾)

森は海の恋人 (文春文庫)

森は海の恋人 (文春文庫)