穴蝦蛄(あなじゃこ)
お寿司に蝦蛄(しゃこ)は欠かせませんよね。甘いタレと蝦蛄の旨みが重なって何とも言えない美味しさです。
我が舞根湾にも蝦蛄がいます。と言ってもお寿司のネタになる蝦蛄ではなく、専ら魚釣りの餌となる「穴蝦蛄」(あなじゃこ)です。
これで狙う魚は鱸(すずき)。初夏、舞根湾には鱸の大群が入ってくるのです。
カキじいさんの庭には樹齢二百年の赤松の大木がありますが、この木に登って鱸の見張りをしたそうです。
鱸が来た!の報が入ると、「ざべら」(土を掻く道具)片手に干潟へ出ます。表土を掻くと十円玉ほどの穴だらけです。
穴蝦蛄の住処です。
この季節、丁度、大麦の穂が出ているので畑に行ってちょっと何本か失敬してきます。そしてその穴にそっと差し入れてやります。
すると、住処に邪魔者が来た!と蝦蛄がハサミでつまんで麦の穂を押し上げて来ます。
そして、穴からハサミが出たほんの僅かのタイミングを捉えて、指で摘み出すのです。
面白いほどよく捕れました。生きた穴蝦蛄は鱸釣りの延縄の最高の餌なのです。
この夏、孫たちにこの面白さをさせてやりたいと思い、干潟に連れて行きました。
残念なことに今は麦畑がありません。習字で使う筆がいいというのでホームセンターに行き、大枚五百三十円で二本買いました。水で洗いほぐして、毛をふさふさにします。
干潟は本当に穴だらけ。孫たちは指を突っ込んだり、足で塞いだり、木の棒を突っ込んだり。あっちにも穴!こっちにも穴!と、信じられない面持です。
さあ、この穴にそっと筆を入れてみて、と筆を手渡します。
大き目の穴に、穴を崩さないように慎重に慎重に入れてやると、思っていたよりも深く筆が沈んでゆきます。このトンネル、どこまであるの!と、孫たちはまたびっくり。
しっー、、、静かにして見てるんだよ、と言いますと、大きくうなづいて、じっと筆を見つめます。
やがて、筆の柄が左右にゆっくり動き始めました。大きく目を見開き、あっ!、動いたよっ、、、、、!。
しっー、静かに、、、、、。
柄がゆっくりと重そうに上がってきました。毛むくじゃらのハサミが穴から覗いています。
つかまえろっ!の声に孫たちは我先にと手を出しますが、残念、奴さんはさっと穴の奥へ引っ込んでしまいました。
もう少しだったのにーーーと悔しさいっぱいの顔。でも、この悔しさが次の工夫へのエネルギーになることをカキじいさんは知っています。
さあ、この夏中にリベンジなるか、乞う、ご期待!