『カキじいさんのブルターニュ紀行  (サンマロ水産高校での熱血講義編)』

2012年10月3日



農業大国フランスにも各沿岸地域に水産業を学ぶ学校があります。今回お招きいただいたのはブルターニュ北部のサンマロにある水産高校の養殖科カンカル分校。カキの養殖が盛んなカンカルのカキ養殖・加工団地の一角に位置する水産業の実習施設です。

フランスのこうした実学学校は学費(寄宿舎などは除いて)がすべて免除され、この水産高校では全校生徒二百数十名ほどに対して先生が50人ほどと非常に恵まれた環境。カキじいさんも
その充実ぶりにうーんと唸ります。

ここでは18〜19歳の養殖科の男女生徒たちが週に数回、座学での理論講義や養殖実習などを通して、養殖業や水産業に携わるための実学中心の勉強をしており、この日は30人ほどの生徒たち、10名ほどの先生、カンカル市の助役さんが出迎えてくれました。

構内はまさにアットホームで、海での仕事を目指す若者たちが、とても気さくで暖かな雰囲気の先生たちとのびのびと学んでいるようです。ガタイのいい生徒たちに「家に来て稼がねーか!」とカキじいさんも上機嫌。

コーヒーと沢山のケーキで歓談した後、さあ、講義です。

日本とフランスとのカキを通した歴史的なつながりや今回の震災でのご支援へのお礼から始まった講義は、目の前に広がるブルターニュの汽水域、「海の味」、プランクトン、三陸沖漁場と黄砂と鉄分、ビッグバンと地球の生立ち、レモンがなぜ酸っぱいか?!など、など生徒も先生も皆初めて耳にすることばかり。

講義にくぎ付けの生徒たちは、白板に書かれた「汽水域」や「鉄」といった漢字も見よう見まねでメモしてゆきます。

「、、、牡蠣の養殖は皆さんも知っているように大変。養殖技術が向上したり、コンピューターが進歩しても、魚介類の育つ背景の環境が健全でなければ、私たち漁民は生きていけません。それが一番大事なことです。二十数年、木を植え森を育ててきましたが、震災後も森から流れ落ちる恵み豊かな川の水で海がよみがえり、復興へとつながっています。大きな災害でしたが、こうして再び漁業で暮らしていけるのは森のおかげ。国際森林年である昨年、国連から自分が”森の英雄”に選ばれたのも、君たちのような海の人間が森の英雄になってほしいという国連の願いなのです。さあ、皆さんも始めましょう!」

カキじいさんのエールとメッセージはフランスの海を目指す若者達にどう響いたでしょうか。

フランスの海辺にも沢山の若い「心の森」が芽吹き始めます。

文・写真 畠山耕