二学期は森の学習(2/2)
聞き入る子供たちに、カキじいさんは橅(ブナ)の木の話を続けます。
「ブナって漢字では「橅」(木へんに無)と書くんだ。
『役立たずの木』っていう意味だよ。」
「エーーー!なんでー?!」
「ブナを伐って薪(まき)にするために割ろうとすると、これがとっても割れづらいんだ。柱や板にしようとすると、逆に割れやすい。床に張ると、たちまち波のようにあばれてしまう。大工さんが困るんだ。
ベンチを作って校庭になんか置いたら、たちまち腐ってしまう。
もっとひどい使われ方もあるよ。これから鮭(サケ)のシーズンになるけど、沖で捕れるサケは銀色なので『ギンケ』って呼ぶんだ。ところが、川に上がると、このブナの木のようにシマシマの模様がつくんだ。
「あっ、それ魚屋さんで見たことがあるよっ!」 さすがは海の子、よく観察していますね。
「でもこのサケのことを『ブナッケ』っと言うんだよ。ギンケに比べて、値段が1/10になってしまうんだ。
サケは川に入ると、エサをまったく食べなくなり、脂がどんどん身から抜けてゆくから美味しくなくなる。だからとっても安いんだ。
分かるだろ。ブナにひっかけて『ブナッケ』て言ってることが、、、、、。」
なんだか、子供たちはシーンとなっています。
「ブナ、かわいそう、、、、、。」 ぼそっと、つぶやく子供たち。
でも、秋田と青森にまたがる、ブナの大きな大きな森、白神(しらかみ)山地は今、世界遺産だよ。ブナが見直されたんだね。
葉っぱが多いから、雨をいっぱいに受け止める。その雨は枝から幹を伝わってどんどん地下水になる。根本はフカフカのスポンジのようで、水を吸収して貯めておくんだ。
『ブナ一石(いっこく)、水一斗(いっと)』(※最下段脚注)というたとえがあるほど、水をたくわえる木なんだよ。富山では『ブナ一本、ブリ千匹』って言っているところもあるんだよ。
カキじいさんは、橅(ブナ)という字を『木へんに金』と変えたいと思うよ」
そう話すと、しんみりした皆の顔に笑が戻ってきたようです。
ミズナラも大きく育っています。
「昔の人は、ナラやクヌギのことを『柞(ははそ)』と呼んでいたんだ。ここから見える向いのなだらかな山は手長山(てながやま)という山だよ。ナラの木におおわれているんだ。
手長山のふもとに、熊谷武雄という気仙沼地方を代表する歌人がいて、百年前にこんな歌を詠っているんだよ。
『手長野に木々はあれどもたらちねの ははそのかげは拠るにしたしき』
ちょっと、難しいよなあ、でもこういう意味だよ。
手長山にはいろんな木があるけど、柞(ははそ)の森に入るとお母さんの側にいったようで、心が休まるなあ」
子供たちは大きくうなずきます。
「昔の人は、ブナやナラなどの落葉広葉樹の森を自然界のお母さんだと、ちゃんと知っていたんだね。
よし、今日はこの歌を憶えよう。」
夕暮れ近づく手長野に向かい、子供たちの朗詠がしばらく続いていました。
※「石(こく)」は材木の換算単位、一石は約0.28m3、一斗は約18L