二学期は森の学習(2/2)

mizuyama-oyster-farm2010-10-05

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聞き入る子供たちに、カキじいさんは橅(ブナ)の木の話を続けます。


「ブナって漢字では「橅」(木へんに無)と書くんだ。
『役立たずの木』っていう意味だよ。」


  「エーーー!なんでー?!」


「ブナを伐って薪(まき)にするために割ろうとすると、これがとっても割れづらいんだ。柱や板にしようとすると、逆に割れやすい。床に張ると、たちまち波のようにあばれてしまう。大工さんが困るんだ。


ベンチを作って校庭になんか置いたら、たちまち腐ってしまう。


もっとひどい使われ方もあるよ。これから鮭(サケ)のシーズンになるけど、沖で捕れるサケは銀色なので『ギンケ』って呼ぶんだ。ところが、川に上がると、このブナの木のようにシマシマの模様がつくんだ。


  「あっ、それ魚屋さんで見たことがあるよっ!」 さすがは海の子、よく観察していますね。


「でもこのサケのことを『ブナッケ』っと言うんだよ。ギンケに比べて、値段が1/10になってしまうんだ。

サケは川に入ると、エサをまったく食べなくなり、脂がどんどん身から抜けてゆくから美味しくなくなる。だからとっても安いんだ。


分かるだろ。ブナにひっかけて『ブナッケ』て言ってることが、、、、、。」


  なんだか、子供たちはシーンとなっています。


  「ブナ、かわいそう、、、、、。」  ぼそっと、つぶやく子供たち。


でも、秋田と青森にまたがる、ブナの大きな大きな森、白神(しらかみ)山地は今、世界遺産だよ。ブナが見直されたんだね。

葉っぱが多いから、雨をいっぱいに受け止める。その雨は枝から幹を伝わってどんどん地下水になる。根本はフカフカのスポンジのようで、水を吸収して貯めておくんだ。


『ブナ一石(いっこく)、水一斗(いっと)』(※最下段脚注)というたとえがあるほど、水をたくわえる木なんだよ。富山では『ブナ一本、ブリ千匹』って言っているところもあるんだよ。 

                     
カキじいさんは、橅(ブナ)という字を『木へんに金』と変えたいと思うよ」


そう話すと、しんみりした皆の顔に笑が戻ってきたようです。



ミズナラも大きく育っています。


「昔の人は、ナラやクヌギのことを『柞(ははそ)』と呼んでいたんだ。ここから見える向いのなだらかな山は手長山(てながやま)という山だよ。ナラの木におおわれているんだ。



手長山のふもとに、熊谷武雄という気仙沼地方を代表する歌人がいて、百年前にこんな歌を詠っているんだよ。


   『手長野に木々はあれどもたらちねの ははそのかげは拠るにしたしき』


ちょっと、難しいよなあ、でもこういう意味だよ。


   手長山にはいろんな木があるけど、柞(ははそ)の森に入るとお母さんの側にいったようで、心が休まるなあ」


子供たちは大きくうなずきます。


「昔の人は、ブナやナラなどの落葉広葉樹の森を自然界のお母さんだと、ちゃんと知っていたんだね。

よし、今日はこの歌を憶えよう。」




夕暮れ近づく手長野に向かい、子供たちの朗詠がしばらく続いていました。


畠山重篤


柞(ははそ)の声が聞こえましたか?



※「石(こく)」は材木の換算単位、一石は約0.28m3、一斗は約18L