米と魚の文明
国際日本文化研究センター教授、安田喜憲先生との出会い、そして先生の研究について、もう少し紹介したいと思います。
湖底の泥をボーリングすると、年縞(ねんこう)が形成されていることは前回書きました。
年縞には、花粉のほかに火山灰、洪水時の土砂、草木なども含まれています。
年縞は言わば地球の「歴史年表」の様なものです。近代の歴史も年縞にはっきりとその跡が記されているそうです。
例えばアメリカ、ミシガン湖の湖底をボーリングすると、白人がヨーロッパから渡って来てからわずか二百年弱の間に、森林の八割が伐採されたこと、その後、麦、トウモロコシ、ピーナッツ、綿などの作物を移入したことなどが分かりました。
世界四大文明の一つ、メソポタミア文明の故郷、チグリス・ユーフラテス川流域をボーリングして年縞を調べると、昔は深い深い森に覆われていたことが分かりました。今は半砂漠化していて、不毛の大地が広がっています。
パンを得るために森を伐って畑にし、畑に出来ない地は山羊、羊などを放って肉を得たのです。家畜の食圧は強く、二度と森は復活することはなかったのです。
このことから安田先生は、パンと肉の文明(動物文明)はどこまでも森を破壊してしまう文明で、必ず息詰まると主張しています。
日本は仏教の影響もあってか、昔から米と魚を食して(稲作漁撈)暮らしてきました。家畜を放牧しなかったこともあって多くの森が守られると同時に、森と水の循環系が守られてきました。故に、米と魚の文明(植物文明)は未来に希望があるというのです。
しかし、さすがの先生も海までは視野に入れていなかったようです。
「森の破壊は、海の生物生産をも破壊する」
このことを知った時、研究は大きく躍進したそうです。「森は海の恋人」、、、この言葉は環境考古学を研究する安田先生にとって忘れられないものとなり、この言葉と共にカキじいさんは安田先生に出会うこととなりました。
国際日本文化研究センター安田研究室の共同研究会員にカキじいさんを推薦してくださり、共に勉強する機会をこの漁民に与えてくれたのです。
先生は、地球の歴史年表である年縞に人類の歴史年表を重ねると、相互に関わりあっていることを発表し、環境考古学という新しいジャンルの学問を切り開くことになりました。ノーベル賞にはこの分野の賞はありませんので受賞できないそうですが、先生はノーベル賞を選考する側のスウェーデン・アカデミーの会員なのです。
大昔の小さな花粉一粒一粒の声に、先生は今日も耳を傾けます。それは、これからの私たちにとって、とても大きな意味を持つ「過去からの囁き」です。
森と海の歴史を内にそっと刻み込みながら、リアスの海辺の百日紅(さるすべり) は淡いピンク色の可愛らしい花を今日も咲かせ続けています。
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