百日紅は語る
この夏、ふと気が付いたことがあります。
今年は日本列島、西に行っても東に行っても、百日紅(さるすべり)が見事に咲いているのです。
我が家の庭先の木も、九月になってやっと淡いピンクの花を咲かせました。
もともとこの木は中国南部の暖かいところの木と言われていますから、三陸は久しぶりの暑い夏だったというとですね。
京都にある国際日本文化研究センター 教授の安田喜憲先生から、百日紅について興味深い話を聞いたことがあります。
安田先生は土中に堆積している花粉の研究が専門の学者です。
花粉は文字通り粉のように細かい粒ですが、粒の一つ一つをよく見ると、クルミのような硬い殻に包まれていて、腐りにくいのだそうです。
湖の底の泥をボーリングすると、木の年輪のような縞(しま)が一年毎にちゃんと残っていて、その中にその年飛んだ花粉が含まれていることに気が付いたのです。
バームクーヘンというお菓子がありますが、あの縞のイメージです。一年ごとに縞が形成されているので「年縞」(ねんこう)と名付けられました。
古い時代の年代測定は放射性同位元素を調べる方法が一般的ですが、年代の誤差が大きいのだそうです。
ところが年縞で調べると、何十万年も昔のことが年単位で正確に測定することができるようになった、ということです。
紀元前七、八千年から数千年間は縄文時代と言われる時代ですが、この時代、日本では全土でシマサルスベリという白い花の百日紅が咲いていたということが花粉分析から分かるそうです。
つまり、縄文時代って今年の日本のように暑かった可能性が高いのです。
地球の気温は大気中に含まれている二酸化炭素の濃度が係っているといわれていますが、当時は化石燃料を使う時代ではないですから、どうして気温が上がったか、分からないのだそうです。
しかし、青森の三内丸山遺跡に代表されるように、縄文時代は食料に恵まれた平和な時代だったようです。
今年の東北はお米もどうやら豊作で、ご飯を主食に考えれば、食糧に恵まれた幸せな年です。
冷害の年は、サルスベリは咲きません。だから、私は百日紅が咲くとホッとするのです。
先日、安田先生からすごいことを聞きました。実は、化石燃料を使う前から温暖化の兆候があったというのです。
さて、いったい花粉は何を語っているのでしょうか。
安田教授の興味深い環境考古学のお話はこちらでもご覧いただけます。
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