『カキじいさんのブルターニュ紀行  (カキばあさんのためいき編)』

2012年10月3日


フランスはブルターニュ地方北部。大きい時には十数mにも及ぶ潮の干満差で出現する広大で豊かな干潟で、カキやムール貝の養殖が盛んなカンカル、サンマロを訪れています。

今回の旅はカキばあさんも一緒。

パリからのTGVでは車窓の景色を撮ろうと車内を行ったり来たり。「カキじいさんとしげぼう」(仏語版)をプレゼントしたカンカルの小中学校(前出10/8記載)では、子供たちにカキじいさんと揉みくちゃにされ、時差もなんのその、今回の旅を満喫しているようです。http://d.hatena.ne.jp/mizuyama-oyster-farm/20121008/1349689753


この日はカンカルから海岸線をノルマンディ方面へ東走。ル・ヴィヴィエ=シュル=メール (Le Vivier-sur-Mer)でムール貝養殖の干潟を歩いてみることにしました。

潮の引いた干潟をトラクターに曳かれた見学バスに乗って、さあ出発!海辺の草地には「プレサレ」(大潮には海に浸かる広大な草地、転じてそこで育つ子羊たち)」がのんびりと草を食み、遥かにはモン・サン・ミシェルがうっすらと海に浮かびます。


   
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この町の市長さんはこの地方有数のアイディア・マン。自らもムール貝養殖に携わりながら、養殖現場の見学ツアーやムール貝の高品質評価制度の導入、海岸沿いの湿地の保全や植林活動まで、様々に取り組んでおられるとのこと。ブルターニュの「ムールおじさん」とでも言いましょうか。

  

ラクターに曳かれたバスはどんどん陸から遠ざかります。「さあ!到着!」と言われたままに、借りた長靴でまだ潮の引き切っていない干潟に降り立つと、見渡す限りの干潟にはムール貝が真っ黒に巻かれた養殖杭の林。稚貝のついた数十mの麻縄を3m程の木柱にぐるぐる巻いて、潮の干満で育てた後、大きな水陸両用車についた重機でズボッ!と収穫。この場所ならではの何とも大胆な養殖、水揚げ方法です。

「そうそう!これが見だがったんだよぉ!」とカキじいさんも大喜び。方法は全く異なれ、ムール貝も養殖していた二十年ほど前を思い出して、何とも懐かしげです。



  


でも、この豊かな干潟や海にも農業・酪農大国ならではの深刻な問題が潜んでいるようです。背景の広大な農地からの農薬や酪農由来の水質悪化、森林開発、、、。

「海ばり見ででも、やっぱりだめなんだよなぁ。陸の農業、酪農、観光の人だぢも一緒んなって木ば植える切っ掛げができればいいなあ。」“ムール林”の中でカキじいさんも考えます。


ふと見ると、さっきまで遠くにあった海が、川のようにバスへ押し寄せ、干潟がまた海へと戻ってきました。潮の引くのもはやいが満ちるのはもっとはやい。さあ、陸へ戻りましょう。

あれ?カキばあさんは、、、。バスの外に目をやると、中腰のカキばあさんが夢中で何かを拾い集めています。やっとバスに戻ると「舞根の干潟ば地盤沈下で海になってしまって、アサリかぎばでぎなぐなったがら、、、」。そのため息にカキじいさんも苦笑い。

出発直前のバスを横目に「写真撮っぺし!」とカキじいさん。嬉しそうなカキばあさんの両手には、夢中で拾ったアサリがてんこ盛りなのでした。

(おしまい)

 

(次回はカンカル滞在最終日。ル・フィガロの料理評論家の取材を受けるカキじいさん)

文・写真 畠山耕