「あとがき」より
[:H200:W250:right]子供たちに向けて書かれた森、川、海、そして人のつながりの解説絵本「漁師さんの森づくり」(講談社)の後書きより、今回は抜粋してお届けします。子どもにも読める簡易な文章で綴っています。
名古屋でのCOP10が閉会し、子供たちと生き物との出会いに思いを馳せているときに思い出し、今回掲載することにしました。
【編集 牡蠣の森を慕う会 事務局】
「漁師さんの森づくり」後書きより
、、、こうして、この本の構想がかたまってきたのです。
そんなとき、わたしは子どものころを思い出していました。この五月に八十三歳で亡くなった父に連れられて本屋さんに行ったときのことです。
当時は、めったなことでは本を買ってもらえません。気仙沼の文信堂という本屋さんにいくと、いつものように白髪のおばあさんがにこにこ顔で、「きょうはどんな本を買ってもらうのっさ。」と話しかけてきました。書棚には、ほしい本がたくさんあります。でも、買ってもらえるのは一冊です。わたしは迷いに迷ってしまいます。
その中で、ふと目に留まったタイトルの本がありました。『シートン動物記』。わたしの名前は「しげあつ」ですので、あだ名がシートンだったのです。動物好きのわたしは、「おおかみ王ロボ」「灰色ぐまワープ」「サンドヒルの雄じか」などを夢中で読みました。
つぎからは、買ってもらう本はいつも『シートン動物記』です。文信堂のおばあさんにも「シートンさん」と呼ばれるようになっていました。
こんどの本の書き出しは、父とすごした三陸リアスの海辺の生物たちのことにしよう、そう決めたのです。
入院していた父の具合が悪くなってきて、夜、家内と交代で看病する日々がつづいていました。そこで原稿用紙を病院に持ちこみ、父がねむっているあいだに書きはじめました。
目をさましたとき、「父ちゃんとすごした昔のことを書いているから。」と伝え、ときどき読んで聞かせました。ことばをしゃべれなくなっていた父は、にこにこ顔でうなずいていましたが、目には涙がうかんでいました。わたしも父の手をとり、思わず泣いてしまいました。
原稿を書き上げたのは、父が亡くなる一週間前です。
この本は亡き父への「鎮魂の書」となりそうです。
(中略)
「たくさんの子どもたち、そして大人たちにも、ぜひこの本を読んでもらいたい、この本の出版にかかわった人全員が、そんな熱い想いにかられているんです。」と編集の最後の段階にさしかかったころ、阿部さんが、そっと耳打ちしてくれました。
(中略)
きっといい本に仕上がったにちがいない、わたしもすこし自信がでてきました。きょうも、全国各地の小・中学生から[なぜ漁師さんが山に木を植えているんですか、とか、カキの養殖方法を教えてください、とか、]問合せがきています。わたしも早く読んでもらいたいと願っています。
(以上、抜粋。[ ]内、編集追記)
第一章『しげぼうの海』からはじまる「漁師さんの森づくり」は、イラストレーター カナヨ・スギヤマさんのとても素敵な生き物たちのイラストとも相まって、その後、たくさんの子供たち、そして大人たちに読んでいただくことになりました。
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