秋の味覚と「鉄」のおはなし
秋が深まって来て、気仙沼魚市場はサンマ、カツオ、サバ、メカジキなどの水揚げで活気づいています。
十月八日の一日間だけで、サンマ650トン、カツオ220トン、サバ170トン、メカジキ460匹、メバチマグロ30匹が水揚げされました。
漁場は三陸沖から北海道襟裳(えりも)沖にかけての北太平洋です。
三陸沖は世界三大漁場の一つであることは、小学校の社会の教科書で勉強したと思います。
なぜ三陸沖かと言いますと、暖流(黒潮)と寒流(親潮)がぶつかっているからです、とほとんどの人が答えますね。
では、海流がぶつかり合うとなぜ漁場になるのですか?と質問すると、暖かい潮の魚と冷たい潮の魚が、どっちに行ったらいいのか分からずに、ウロウロするからです!と答える人もいるようです。
それもあるかも知れませんね、、、、冗談はさておき。
もちろん、海流がぶつかり合いますと、海底の栄養塩が海面近くに巻き上がってきて、プランクトンが増える、ということは確かにあります。
しかし、ここで知っておかなければならないのが『鉄の科学』なのです。
植物は「鉄」がないと光合成をするクロロフィル(葉緑素)を作ることができません。また、チッソやリンなどの吸収にも「鉄」が必要です。
私たち気仙沼の漁民が、気仙沼湾に注ぐ大川上流の室根町(一関市)の山に、二十数年前から落葉広葉樹の植樹を続けているのも、植物プランクトンや海藻の生育に必要な鉄分が、森から供給されているということが分かったからなのです。
ちょっとだけ難しいお話しになりますよ。
森の葉が落ちて腐葉土ができる時、「フルボ酸」という有機酸(有機化合物の酸)がつくられます。これが水に溶けた鉄と結びつくと「フルボ酸鉄」に変わります。
北海道大学名誉教授 松永勝彦博士が二十年前に発見しました。鉄は酸素と出会うと酸化して(簡単に言うとさびて)、粒子になって海底に落ちてしまうのです。
沖合では海はひどい「貧血」で、海水1リットル中、わずか1/1,000,000,000グラム(十億分の一グラム=ナノグラム)しかありません。
二十年前、アメリカの海洋化学者ジョンマーチン博士が分析に成功したのです。
マーチンは北太平洋に鉄を運んでいるのは、中国大陸からやってくる黄砂(こうさ)であることも発見しました。
霞がかかったような薄黄色の空、車のボンネットがお砂糖でデコレーションされたようになる、あの黄砂です。
でも黄砂がやってくるのは春先ですよね、、、、、北太平洋でプランクトンが大量に発生するのは、その黄砂が降る前なのです。
これが、長年の大きな謎だったのですね。
今年九月末、カキじいさんも先頭バッターで出場(?)した、京都での『森里海連環と地球的課題』というシンポジウム の中で、誰もが驚く発表がありました。
発表者は、北海道大学低温研究所准教授 白岩孝行先生 です。
ロシアと中国の国境を流れるアムール川流域の森と湿地帯から供給されるフルボ酸鉄が、潮に運ばれてオホーツク海を縦断。千島列島のとても狭いブッソル海峡を通って、はるばる二千キロを旅して豊かな漁場となる三陸沖まで届いていたというのです。
アムール川の鉄分濃度は、外海の100倍なのだそうです。
京都の総合地球環境学研究所 の五年にわたる調査の賜物で、白岩先生がチームリーダーでした。
『アムール・オホーツクプロジェクト』 と名付けられたその調査研究計画で、先述の松永博士の助言と、その教え子である西岡純 北海道大学低温研究所准教授 の鉄の分析化学のお蔭です、と感慨深げに語ってくれました。
私たちの舌を楽しませてくれる秋の味覚、サンマもカツオもマグロもサバも、実は森の恵みだったのですね。
さて、庭先では、孫たちが、今朝、気仙沼港に揚ったサンマを「ごふぉごふぉ」と苦戦しながら焼いているようです。「鉄」、、、、、いや、「炭」なる前に、加勢に行くとしましょう。
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