カキじいさんのつぶやき(2)

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水山養殖場にはさまざまな人たちがやって来ます。

 今日はアメリカの小中高の先生方が16人、フルブライト・ジャパン(日米教育委員会)から通訳他4人、計20人です。気仙沼は環境教育の先進地(ユネスコ・スクールによるESD実践地域)ということで時々視察に訪れる方々がいるのです。でもその先駆けになったのは、私たち牡蠣を養殖する漁民です。


 今から30年ほど前、気仙沼湾は汚れ、赤潮まみれの海でした。もっとも汚い海で繁殖するというプロロセントラル・ミカンスという赤潮プランクトンが大発生していたのです。

 一個体の牡蠣は呼吸のために海水を一日200リットルも吸い込みます。その中にプランクトンが含まれていて、エラで「ろ過」して食べています。赤潮が発生すると、牡蠣の体内に海水と一緒にそのプランクトンも取り込まれてしまいます。すると白い牡蠣の身が「赤く」なるのです。血液に似た色になり、「血牡蠣」(ちがき)と言われました。

 赤潮にまみれた海を、青い海に戻したい。「森は海の恋人運動」は漁師の切なる思いから出発したのです。赤潮の原因は太平洋の沖から来るわけではありません。すべて陸側の人間の業に原因があるのです。

 気仙沼湾にそそぐ大川上流の森から手をつけねばなりません。そこで始めたのが漁民による落葉広葉樹の植林活動です。今年で22年目を迎えました。
 しかし、もう一つ気が付いたのは川の流域に住んでいる人々に、森と川と海は一つだという意識を持っていただかないと海は蘇らないということです。
 そこで始めたのが子供たちへの体験学習です。平成2年から開始し、招いた子供たちは10,000人を超えました。

 牡蠣は全世界河口の海が漁場です。森の養分が餌の植物プランクトンを育むからです。牡蠣は食べ物として特別な存在で、ほとんどの貝類が筋肉を食べるのに対して、牡蠣は腸ごと、しかも生で食べます。川の水が汚れれば当然、牡蠣も汚染されてしまいます。川の流域に暮らす人々の心がきれいでなければ安心して生の牡蠣を食べることはできないのです。

 そこで、子供たちに対する体験学習のアイディアが生まれたのでした。プランクトンネットで採取したプランクトンをコップにため、一口ずつ飲ませることにしたのです。

「川の水に溶け込んでいる成分をまず体内に取り込むのはプランクトンだよ。プランクトンを飲むことは、人間が流した物を飲むのと同じなんだよ。」

 ごちゃごちゃしたことを言わなくとも、子供たちはピンッと感じ取ります。

「私たちは体験学習の後、朝シャンのシャンプーの量を半分にしました。」
「お父さんに農薬や除草剤をほんの少しでいいから減らしてくださいとお願いしました。」
「お母さんに台所で使う洗剤は自然界で早く分解するものを使いましょうといいました。」

 こういう作文が届いたのです。
 
 河口の海で牡蠣を養殖する漁民はとてもいい「ポジション」にいたのです。気仙沼湾の環境教育はこうして漁民からスタートしました。そして青い海が次第に戻ってきたのです。



 説明を終えるとアメリカ人の先生方から大きな拍手をいただきました。

 ライフジャケットを着用してもらい、船に乗せると青い海に繰り出します。海辺の先生は二人、殆どは内陸部の方々です。筏(いかだ)に着けると養殖している牡蠣を引き上げて見せました。もちろん初めて見る光景のようです。

 牡蠣を食べますか?と勧めると尻込みしています。「私たちはポパイがほうれん草を食べるように牡蠣を食べて元気をもらいます」、、、と、ズズーと啜って見せました。すると、少々ポパイに似た(ゴメンナサイ、、、)先生が食べてみたい、と言うのです。

 はじめ「スコシ、ショッパイ!」と言いましたが、次第に笑顔になります。デリーシャス!、、、と指を丸めました。

 「小さく切ってくれない、、、?」と年増(、、)の女性教師のリクエストです。

 アナゴ釣りの餌のように小さく切った一片を渡すと目をつむりながら飲み込みました。親指を立てて「グッド、、、」。



 今日のカキじいさんは国際親善に努めました。

畠山重篤



波静かな舞根湾と艶やかな牡蠣

カキじいさんとしげぼう

カキじいさんとしげぼう