『カキじいさんのブルターニュ紀行 (カキを愛するひとびと〜カルナック〜編)』
2012年10月5日
南ブルターニュ、キブロン湾を望むカルナック(Carnac)で迎える二日目の朝です。
窓から海を眺めると、鳥が風に流され、波間に係留してあるヨットも木の葉のように揺れて、海上は風がとても強うそう。さすがに海辺を散策する人もまばらです。
、、、と、みると砂浜には朝のお散歩をするカキじいさんとカキばあさん。舞根の冷たい「なれ風」(冬場に吹く強烈な海風)に比べれば、二人にとっては今日の海辺もそよ風のリゾート、、、でしょうか。カキばあさんは相変わらず浜で拾い物(「カキばあさんのためいき 編」)。アサリに続いて、今度は流れ藻を集めているようです。
今日は、パトリック・ルイ・ヴィトンさん (「親愛なるパトリックさん編」)のご紹介で、昨晩のパーティーでご一緒したエルベさんに、自身が経営されているカルナックはプルーアルネルのカキ養殖場(TIBIDY)、隣町ラ・トリニティ=シュル=メール(La Trinite-sur-Mer)の養殖場などをご案内していただく予定。お天気ばかりが心配です。
クロワッサンにカフェオレの軽い朝食を済ませ、お迎えの車に乗り込んで海辺の道を10分ほど。昨晩のレストランのすぐ近くにエルベさんの養殖場はありました。
今は息子さんご夫婦が経営されているとのことで、エルベさんは「南ブルターニュのカキじいさん」と言ったところでしょうか。
工場の一角にある展示を使いながら、この地方のカキの採苗の歴史や養殖の方法、近年の病気のお話に熱が入るエルベさん。
「黒く平たいネットに入れて干潟のベッドにカキを寝せますが、入れる量は数十個。密植になるので決して多すぎてはいけませんね。」と説明するエルベさんに、ふふふっと笑いながら、
「んでも、いっぺえ入れたぐなんだよねえ!本当はいっぺえ入れてえんだっちゃ?!」とカキじいさん。
「んっー、本当はねっ!」
「はっはっはっ!やっぱりカギ屋は万国共通だねえ!」
と二人のカキじいさんのカキ談義に皆、大笑いです。
この地方のカキ養殖の組合の代表を務めるエルベさん。やはりここでも、2008年以来、若いカキがウイルス性の病気によりその80%近くが死滅しているとのこと。密植の解消やカキを「鍛える」方法、病気への対策から機械化と品質を保つ方法など、仲間たちと試行錯誤で研究してきたそうです。
息子の代に譲ったとはいえ、カキにかける情熱は人一倍。お話の端々に何だかカキじいさんと同じ雰囲気を漂わせています。
カキの稚貝を平たいネットに入れて、干満差の大きい干潟のベッドに並べる方式は北部と変わりませんが、この時期にしては北部よりもやや大ぶりのカキが工場の一角の直売所に並んでいます。
カキを愛するもう一人、パトリックさんも待ちきれずに自ら手早く剥いたカキをツルリッ!またッ!!本当にカキには目がありません。それもそのはず、エルベさんのカキはコンクールでグランプリをとるほどの出来栄え。エルベさんはこの地方の「牡蠣師」なのです。
養殖場の工場の中にはカキや貝類の直売所もあって、この日もお客さんがひっきりなしです。カキじいさん一行に説明を続けるエルベさんの傍ら、接客はお嫁さんの仕事。お店の奥とレジを忙しそうに行ったり来たり。
「カギ屋の嫁はやっぱり良ぐ稼ぐなあ!ほんとによく稼ぐお嫁さんだごどっ!」とカキじいさん。
「何言ってんの!うぢの嫁だって良ぐ稼ぐっちゃ!!」とカキばあさんが横から割り込みます。エルベさんも目を細めてうれしそう。
熱心な研究家なだけでなく、家族と共に「うまいカキ」を作るための情熱にあふれた「南ブルターニュのカキじいさん」。
カキ養殖場の美しく豊かな海と干潟をバックに、何だか同じ匂いのする三人の「カキを愛するひとびと」は飛び切りの笑顔で皆に記念撮影をせがむのでした。
(おしまい)
※次回は、「牡蠣を愛するひとびと ラ・トリニティ=シュル=メール編」です。
文・写真 畠山耕