スプリング・ブルーム
ブルームはまだか、、、。
二月も中旬を過ぎると、水産の研究者からそんな声が聞こえてきます。
「スプリング・ブルーム」とは春先、植物が一斉に芽を出し、花が咲き揃うことですが、実は北の海では陸よりも一足先に春が来るのです。
冬になると、水温がどんどん下がってきます。気仙沼では三月が最も低くなり、6℃にも下がります。
海水は温度が低くなるほど重たくなる性質があり、どんどん海底に沈んでゆきます。
すると、海底の水が上がってくる逆転現象が起こります。
チッソやリンなどの栄養塩が上がってくるのです。
そこに、室根山を源流とする大川から雪解け水が気仙沼湾へと流れ込み、森の中で作られたフルボサン鉄が供給されます。川の水にはケイ酸も含まれています。
こうしてカキやホタテの餌となる、ケイソウ類という植物プランクトンが大発生します。
ワカメやコンブなどの海藻もどんどん増えます。
それを目がけて、魚や貝が子供を産むのです。
ホタテ貝を開けると、貝柱の周りに赤と白の半月状の内臓があり、どんどん大きくなってきています。
赤は卵巣、白は精巣です。ブルームが起こる頃、ホタテ貝は産卵するのです。
カキの殻の中にも、カタナギ(ギンポの地方名)の卵のかたまりが良く見られます。(ナギナタに似た細長い小魚で、うっかりすると鋭い背鰭で手が切れてしまいます。)
世界三大漁場の一つとして有名な三陸沖は、もうブルームが起きています。
早く水温が下がるからです。
北からやってくる寒流が、チッソ、リンを運んで来ます。
では、鉄はどこから来るのでしょうか?
三月末には黄砂が空から降ってきて、鉄を供給していることは二十年前に分かっていました。
でも、ブルームは黄砂が降ってくる前に起きていたのです。
アムール川流域の広大な森林で生まれたフルボサン鉄が、オホーツク海の中層を流れる海流に乗って南下します。
千島列島へぶつかった海流は、ブッソル海峡から北太平洋に流れ出て、水深500メートルほどの中層に巨大な「鉄の玉」となって存在し、それが厳寒の時期になると浮上してくるのです。
植物プランクトンが増えると、それを餌にしてオキアミが大量に発生します。
北の海を代表する魚、鱈(たら)もそれを知っていて、岩礁に近づき産卵します。
さらに、それを狙ってタラバガニが移動してきます。
我が家のタラバガニ、「カーニー」も産卵しました。
水槽にはカーニーの赤ちゃんでいっぱいです。
カーニーに鱈の切り身をやると、小躍りして喜び、ムシャムシャと食べまくります。
鰤(ぶり)の切り身とは反応が全く違うのです。
「鱈場蟹」(タラバガニ)という名前には、スプリング・ブルームからはじまる壮大な理由が隠されていたんだね、カーニー?。