リースと海鞘(ほや)と山ぶどう
四人の孫たちがクリスマス・リースをつくる蔓(ツル)をとりに行きたいと言い出したので、付き合いました。
リアス式海岸は森と海が直近にくっついていますから、リースの材料はいくらでもあります。
まず、目につくのは木通(アケビ)のツルです。
根元を切って引っ張りましたが、グルグルと木に絡まっていて、なかなか取れません。
枝先の細いツルは取れますが、小さなリースにしかなりません。太いツルはしっかり木に巻き付いているのです。
ようしっ!、おじいちゃんが良いツルがあるところを知っているから、、、と、海辺の作業場の近くに連れて行きました。
秋、山ぶどうの実が生っているのを見ていたからです。
山ぶどうのツルは木に絡まらず、根元を切って引っ張れば、枝先まで引き寄せられることを昔、カキひいじいさんに教えてもらいました。
「それっ!ひっぱれー!」
まるで絵本の「おおきなかぶ」のように、おじいさんが三人の孫たちに声をかけると、ズル、ズルッーと細い先の方まで引き寄せることができました。
さっきのアケビのツルとは大違い。孫たちは、すごいっ!とびっくりです。
これで今まで一番大きく立派なリースができそうです。
漁師の仕事の七割はロープワークです。でも、カキじいさんの若い頃は化学繊維はありませんでした。藁縄(わらなわ)やマニラロープという麻の繊維のロープでした。
それ以前は、船を固定するロープは山ぶどうのツルだったのです。長いまま採取しやすく、海中で腐りにくいのです。
もうひとつ大切なことは、タンニンが多いせいか、木喰い虫が食べないのです。
海中の木喰い虫の食欲はものすごく、昔、木造船に乗って寝ていると、木をかじる音がしたそうです。
三陸名産に海鞘(ホヤ)がありますが、食べられるようになるまで四年もかかります。
ホヤは冬至の頃、産卵します。そこでホヤの種苗を付着させるため、山ぶどうのツルを「おさげ」の様に編んで海中に吊るしておくのです。
百年前の大正時代に、カキじいさんのすぐ近くの家の畠山豊八さんという人がそのことに気づき、ホヤの養殖が始まりました。
リース作りから、養殖の歴史まで説明することになってしまい、「おじいちゃん、まーだ?」と孫たちはせっつきます。
クリスマスが近づく頃、孫たちにもこの話を語り継いでいって欲しいものです。