ふくろうのお母さん

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広島県神石町で開かれた森川海の繋がりの勉強会※でもう一つの心温まる出会いがありました。

「ふくろうのお母さん」こと、見永豊子さんです。


ご自宅に案内してもらいました。狭く曲がりくねった杉木立の中をしばらく走ると、ポッカリ空間が広がり、雑木林を背にして一軒の農家があります。

昔は養蚕が盛んだったらしく、三階構造です。囲炉裏の煙を抜く穴が屋根の三角目に見えました。

ここからふくろうのカップルが入り、三階部分に巣をつくり、ヒナをかえすようになったのだそうです。

それが、連続して二十年も続いているそうですから驚きです。


多い時は四羽、年によっては一羽の時もあります。三階から囲炉裏のあった土間まで吹き抜けになっており、時々ヒナが落ちるのだそうです。

鳥の世界も厳しく、餌の少ない時は間引きの意味があることを聞いていたので、思い切って鳥のささみをあげると、勢いよく食べるではありませんか!猛禽類なので人には馴れないと思っていたのです。


目がパッチリして、ぬいぐるみのように可愛く、「フクフクフクちゃん!」と餌をあげていると、親鳥までもが降りてきてしばらく様子を見るようになりました。

親鳥は羽根をひろげると1.5メートルほどになり、その大きさにびっくり。


二週間ほどすると巣立ちの時を迎え、周りの森からヒナを誘う声がします。家の近くの栗の木の枝に止まらせ、離れてみていると、やがて飛んでゆきます。

でもしばらく家の周りにいて、「フクフクフクちゃーん」と呼ぶと近くまで来るそうです。


こうして毎年一、二月になると、この家にふくろうがやっ来るようになったのです。

同じ親なのか、子どもが来ているのかは分からないそうですが、一羽の時でも落ちてくることがあるそうですから、すっかり親代わりに思っているのかもしれません。

「とにかく可愛くてたまりません!」と、今年八十歳の豊子さんは満面の笑みを浮かべて話してくれました。


やがてマスコミに知られることになり、今年の巣立ちの時は百五十人も来てびっくりしました。でもちゃんと巣立ってくれています、と自信があるようです。

昨年、豊子さんは、国が進める都市と農山漁村の共生・対流推進会議の「オーライ!ニッポン・ライフスタイル賞」を受賞しました。

フクロウに象徴されるように、地元の自然環境や集落の伝統を大切にしつつ、都市住民や海外からの人々の受け入れを積極的に楽しんでいる姿が、この賞の理由だそうです。

その賞の審査委員の一人が、京都の国際日本文化研究センター教授の安田喜憲先生だというではありませんか!

「先生もここに来られましたよ!」

「えっ、わたしも安田先生とは二十年来のお付き合いがあるんですよ!」

「まあなんという偶然でしょう!」と大喜び。

安田先生については以前にもこの文章でご紹介していますから、その会に譲るとしますが、豊子さんも先生のあの穏やかな笑顔と独特の世界観が大好きなようです。




部屋はふくろうの写真、グッズでいっぱい。「フクちゃんがいますからひとりでも寂しくありません!」と、とにかくお元気です。お手製の郷土料理までご馳走になってしまったのでした。



年が明けたら、元朝参りでわたしもお願いすることにしましょう。

今年も“フク”ちゃんがやってきますように、と。

畠山重篤


ことしも遠くで「ほー、ほー、、、」という声が聞こえてきます。

(舞根の月と冬のオリオン)

広島県瀬戸内 海の道構想実証事業 〜豊かな自然が育む瀬戸内のエコ、グリーン(ブルー)ツーリズム推進事業〜